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こぶけの仮
毛野は出てきません
作品的には衆道の要素がないと言えないというかむしろ実質念友であろうみたいな解説もあるところですが、とりあえず誰も実経験がないということになっています

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聞いてやって損した、と道節は思った。
近頃小文吾が熊のように唸ったり、はたまた狸のように呆けているのには気が付いていた。
気付いた上で放っておいたのだ。
だが小文吾の乳兄弟である現八が、どうやら悩みがあるようだと相談しに来たもんだ。
現八だって悩みとやらにおおよその検討はついているに決まっている。そのうえでわざわざ巻き込もうとしている。お前一人で行けと逃げようとしたが、柔捕物の達人に肩を掴まれては話を聞いてやるほかなかった。
里見家から拝領した城へ旅立つ準備もせずに、今日は呆ける日の様子だった小文吾は、年長犬士二人に声を掛けられて最初はもごもごとしていたが、話し始めた。
「おれは、あまり考えるのが得意でないから」
━━要約すると、こうだ。
あさけのの姿に一目惚れしてしまい、忘れられない。
でも毛野は大事な仲間で、義兄弟だし、本人もこれからは男として生きていけるのだから、それを尊重したい。
だが最近は、普通の毛野相手にも見惚れたり、緊張する時がある。男なのに。
「くだらん」
聞いて損した、と付け足して道節は寝転んだ。たった二言三言の話を歯切れ悪く、言い訳を重ねるように長々と語ってくれたが、とどのつまり
「ただの色恋沙汰が衆道の色恋沙汰になっただけだろう」
「そうなのか?」
「そうさ」
小文吾が毛野を意識してる、というのは誰が見ても…少なくとも犬士の中で気づいてない者はいないだろう。
誰にでも懐っこくて親切な男だ。意識するあまり毛野だけによそよそしいということも、毛野だけに優しいということもなかったが、ふと隣に立たれた時に見つめていたり、それで目が合えば何の理由もなく大笑いして誤魔化したりしていて、その初心っぷりは正直、見ていて痒い。
いつか、城の瓦が落ちるかというほどの絶叫に飛んで行ったところ、毛野が水浴びをしているところに小文吾が遭遇しただけだった、という時には本気で燃やしてやろうかと思った。
「道節と現八の兄さんは、衆道の経験は」
「ない、ない」
「あるわけない」
またちょっとの間、黙り込んだ。
「衆道ってのは、やっぱり男を抱きたいと思うんだろうか?」
「詳しくないが、男でいいから抱きたいと思うから衆道なのではないか」
現八が苦笑しながら答える。なんだか、とにかく不毛な問答だった。
「であれば、やはり衆道ではないのかもしれん。毛野を抱きたいとは思わんもの」
大熊はとことん唸っている。
「なんというかこう、ただ見ていて腹がいっぱいになるだけだ」
胸だろうと言う代わりに
「じゃああさけのは、抱きたいか」
と聞くと、腕を組んで俯いたままいよいよ固まる。冗談だと勝手に現八が話をまとめて肩を叩くと、熊の置物は縁側から転がり落ちた。
通りすがりの大角の診たところ、
「知恵熱ですね」
伏姫神よ、これが平和というものだろうか。
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「ただの色恋沙汰と言っては、身も蓋もないと思いますが」
仕留めた猪でも運ぶように小文吾を連れて行く現八を見送りながら、道節に言う。
「その、"ただの"色恋沙汰が、小文吾殿には一大事なんでしょう」
道節はいまだ横になっている。
因縁を巡る旅のさなか、特に気を張って、隙のなかったこの人が、日向でこうもくつろいでいる。大角は、諫めながらも自分が笑っているのが分かった。
「聞こえていたか。だが実際、色恋にすらなってないだろう、あれは」
さてどうだろう。小文吾が毛野を意識しているのは確かだが、四六時中かというと、そうでもなかった。八犬士が揃う前の道中、雑魚寝の夜に毛野の隣だった小文吾は、眠れぬどころか寝ながら毛野にくっつき、蹴り起こされていた。恋と云うよりか、年の離れた妹か弟を可愛がっているだけに見えた。無論、渦中にあって、惚れた腫れたを意識するに至ってなかっただけかもしれないが。
「本人も抱きたいわけではないと言っている。結局、女姿に惚れてるだけだろうな」
「会えぬ女人の面影を追っている…と」
「不憫だが、正真正銘女の嫁をとれば幻の初恋も終わるだろう」
「その、嫁とりが問題なのです」
中庭の大きな牡丹の木の陰から、箒を持った荘介が出て来た。
「毛野殿に輿入れする姫君はもとより、毛野様に勝たねばならぬのですかと、小文吾殿の嫁御も決まらぬと、と何故か私が御家老に泣きつかれました」
一緒にいた信乃はにこにこと笑っている。
「いっそのこと、告白して、フラれて、踏んぎりをつけさせたらどうだろう?」
なかなか酷なことを言う。
「莫迦」
道節が起き上がった。
「万が一、毛野が受けたらどうするつもりだ」
どうもこうもないでしょう。止めようとする道節の顔は真面目にきょうだいの話をしているようで、大角はそれがなんだかおかしかった。
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